【同一労働同一賃金】アートコーポレーション事件(横浜地判令2.6.25労経速2438号3頁)

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※本判決は、準備作業の労働時間性・引越作業中の破損への賠償金負担・通勤手当の相違・個人の携帯電話の業務使用・組合費の賃金控除というように多数の争点がありますが、ここでは、アルバイトと正社員等との間で通勤手当の支給に関して相違を設けることの不合理性について取り上げます。

1.事件の概要

X1~X3(X2のみアルバイトだが、いずれもフルタイム勤務で職務内容は引越作業・ドライバー)は、引越関連事業等を行うY社との間で雇用契約を締結し、勤務していた。Xらが、Y社に対して、未払の通勤手当の支払(アルバイトに支給しない旨の非正規従業員給与規程について労働契約法20条違反の不法行為との予備的主張あり)等を求めたのが本件である。

2.通勤手当の内容

ア Y社においては、就業規則(以下「正規従業員就業規則」という。)上、従業員は、正社員、準社員(契約社員)、パートタイマー及びアルバイトなどに区分され(正規従業員就業規則2条1項)、正社員及び準社員については、同就業規則が適用ないし準用され(同条2項)、パートタイマー及びアルバイトに対しては、パートタイマー・アルバイト就業規則(以下「非正規従業員就業規則」という。)が適用される(同条3項)旨定められていた。

イ 正規従業員就業規則35条に基づくY社給与規程によれば、通勤手当は、賃金体系上基準外賃金と位置付けられ(ただし、準社員(契約社員)及び嘱託については、採用時及び更新時の雇用契約書によるものとされている。同規程4条)、別途規定する通勤手当支給規程に基づいて支給する旨規定されている(同規程23条)。

ウ 非正規従業員就業規則26条に基づくY社の「パートタイマー・アルバイト給与規程」(以下「非正規従業員給与規程」という。)によれば、パートタイマーに対しては、Y社通勤手当支給規程に基づいて支給する旨規定されているが(非正規従業員給与規程23条本文)、アルバイトに対しては、通勤手当を支給しない旨規定されている(同条ただし書)

エ そして、Y社通勤手当支給規程によれば、通勤手当の受給手続として、新たに通勤手当の支給を受けようとする者は、所定の様式により所属長の承認を受け、人事総務課に申請しなければならない旨規定し(同規程5条)、同規程7条後段には、「受給漏れがある場合は、過去3か月間に遡って支給する。」と規定されてい。

オ 原告X1及び原告X2に対しては、通勤手当が支給されていなかった。

3.双方の主張

① Y社の主張

ア X1は、Y社通勤手当支給規程に定められた受給申請の手続を所定の期間内に履践しなかったから、通勤手当の支払を求めることはできない。
Z2支店では、Y社通勤手当支給規程を含む就業規則一式を、支店内の入り口から見てカウンターの反対側にあるキャビネットに備え置き、従業員がいつでも閲覧することができるようになっていた。そのことは、生産職を集めた現場会議において告知されており、支店の従業員は全員、就業規則がどこに保管されているのか知っており、通勤手当がもらえるということも周知されていた。また、X1を含む新卒入社の正社員の場合、新入社員研修において就業規則等の内容について説明され、併せて通勤手当の申請方法も説明されていた。したがって、Y社がX1に通勤手当を支給しないことは、権利の濫用にあたらない。

イ 正社員とアルバイト・パートタイマーとアルバイトでは、負担する責任や職務内容が異なるから、アルバイトに対する通勤手当の不支給は不合理ではない。

ウ 賃金請求権は2年の消滅時効にかかるところ、本訴が提起されたのは平成29年10月10日であるから、X1及びX2の平成27年9月支払分以前の通勤手当請求権は、いずれも本訴提訴までに時効期間が経過している。
また、不法行為による損害賠償請求権は3年の消滅時効にかかるところ、X2の予備的請求が追加されたのは平成30年9月26日であるから、X2の平成27年9月支払分以前の通勤手当相当額の損害賠償請求権は、いずれも裁判上の請求までに時効期間が経過している。

② X1及びX2の主張

ア Y社には通勤手当支給規程が存在し、X1は、平成24年4月1日から平成26年3月31まで、Z4に居住してZ5からZ6までバス通勤をし、同年4月1日から平成27年5月1日まで、Z7に居住しZ8駅からZ駅まで地下鉄通勤をし、同年5月4日から平成28年6月26日まで、Z10に居住してバイク通勤をし、同年6月29日から同年8月31日まで、Z11に居住して通勤していたことから、通勤手当の支給対象者であったにもかかわらず、平成24年4月分から平成28年8月までの通勤手当合計38万3120円が未払である。Z2支店においては、Y社通勤手当支給規程を含む就業規則は、X1を含む労働者に周知されておらず、X1がY社通勤手当支給規程に定められた受給申請の手当を所定の期間内に履践していないことを理由に、Y社が通勤手当の支給を拒絶することは、権利の濫用であり認められない。
Z2支店における生産職の正社員の通勤手当受給率が極端に低いことは、Y社が生産職の正社員に通勤手当が支給されることを周知していなかったことを推認させる事実である。

イ 正社員とアルバイトとの間、又はパートタイマーとアルバイトとの間で通勤手当の支給に関して相違を設けることは不合理であり、労働契約法20条に違反する。したがって、「アルバイトに対しては通勤手当を、支給しないこととする。」と規定する非正規従業員給与規程の23条ただし書きは無効であり、このことを踏まえて同規程を合理的に解釈すれば、アルバイトも通勤手当の支給対象者となるから、X2は、同規程に基づき、平成27年4月支給分から平成29年5月支給分までの26か月の通勤手当13万円を請求する。
また、上記のような不合理な労働条件の相違は不法行為に該当するから、X2は、予備的に平成30年9月25日付け訴えの変更申立書をもって、不法行為に基づく同額の損害賠償請求をする。

ウ 消滅時効の主張は争う。このうちX2の不法行為に基づく損害賠償請求に対するものについては、非正規従業員給与規程にアルバイトに通勤手当を支給しない旨の規定があり、これが無効であり通勤手当の支給を受けることができるとX2が知ったのは、Y社に対して雇用契約書等の交付を請求し、これを受けてY社から上記規程の交付を受けた後であり、X2が損害を知った時は、どれほど遡っても同日以降であるから時効は経過していない。

4.判決の概要

Y社通勤手当支給規程によれば、通勤手当の受給にはその申請が必要であり、支給漏れがある場合に遡って受給することができるのは過去3か月分に限定されるところ、X1がこの通勤手当の受給申請をしておらず、かつ、X1の本訴請求に係る通勤手当が上記遡及可能期間を徒過していることは明らかである。これに対し、X1は、B支店においては、Y社通勤手当支給規程を含む就業規則は、X1を含む労働者に周知されておらず、Y社通勤手当支給規程に定められた受給申請の手続をX1が履践していないことを理由に、Y社が通勤手当の支給を拒絶することは権利の濫用であり認められないなどと主張するが、Y社においては、少なくとも新入社員研修の際には、通勤手当の申請手続が説明されており、通勤手当制度の存在及びその受給のための手続が周知されていないということはできないし、Y社において、通勤手当について従業員に対し虚偽の事実を告げたり、通勤手当の申請を行わないよう不当な圧力を加えたりしたという事情も特段うかがわれないことを踏まえれば、X1に通勤手当を支給しなかったことを権利の濫用などということはできない。
したがって、X1の通勤手当の請求は理由がない。

(2)次に、X2は、正社員等とアルバイトとの間で通勤手当の支給に関して相違を設けることは不合理であり、労働契約法20条に違反する旨主張し、主位的に雇用契約に基づく賃金として、予備的に不法行為に基づく損害賠償として、通勤手当ないしそれと同額の損害賠償を請求する。
この点について検討すると、同条が有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違は「不合理と認められるものであってはならない」と規定していることや、その趣旨が有期契約労働者の公正な処遇を図ることにあること等に照らせば、同条の規定は私法上の効力を有するものと解するのが相当であるが、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではないと解するのが相当である。そうすると、非正規従業員給与規程には、アルバイトに通勤手当を支給すると解釈する根拠となる規定がない以上、アルバイトである原告X2に通勤手当を支給することが同人の労働契約の内容となるとはいえないから、その余の点を検討するまでもなく、X2の雇用契約に基づく賃金請求は認められない。なお、X2は、非正規従業員給与規定23条本文が、アルバイトに通勤手当を支給すると解釈する根拠となる旨主張するが、非正規従業員給与規定においては、パートタイマーとアルバイトは概念上別のものとして定義されていることからすれば(同規程2条)、通勤手当について規定する同規程23条は、その文言上、本文においてパートタイマーについて同手当を支給する旨、ただし書においてアルバイトには同手当を支給しない旨規定したものであって、ただし書によって本文の効果を除外するという構造にはなっていない。とすれば、労働契約法20条の効果によって、非正規従業員給与規定23条ただし書が無効とされたとしても、アルバイトに対して同条本文の効力が及ぶと解することはできず、アルバイトについては、通勤手当の支給に関する規定が欠缺した状態になるにすぎないから、X2の上記主張は採用できない。

※「パートタイマーには通勤手当を支給する。ただし、アルバイトには通勤手当を支給しない。」と規定されている場合には、但書が無効となっても、「パートタイマーには通勤手当を支給する。」と規定されるだけなので、アルバイトについては、通勤手当の支給についての規定が無い状態(欠缺した状態)になるだけなので、雇用契約に基づいて通勤手当を請求することはできないということです。なお、もし「通勤手当を支給する。ただし、アルバイトを除く。」と規定されていて、但書が無効となれば、雇用契約に基づいて通勤手当が支給されるという結論になるように考えるのが論理的ですが、そうなると同じ非正規従業員給与規程の適用を受けるX2以外の他のアルバイトに対しても、通勤手当が支給しなければなり、影響が大きくなってしまいます。以下に述べるように、結局は損害賠償請求としてX2の通勤手当相当の請求を認めていますので、上記の部分は、判決の影響をX2のみに留めるための配慮ではないかと私は考えます。従って、「通勤手当を支給する。ただし、アルバイトを除く。」と規定されていて、但書が無効となれば、雇用契約に基づいて通勤手当が支給されるという結論になるとも言えないのです。

そこで、X2の予備的請求である、不法行為に基づく通勤手当と同額の損害賠償請求の可否について検討する。
労働契約法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当であるところ、本件において、通勤手当に係る労働条件の相違は、正社員とアルバイトとでそれぞれ異なる就業規則(給与規程)が適用されることにより生じているものであることに鑑みれば、当該相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであるということができる。したがって、正社員とアルバイトの通勤手当に関する労働条件は、同条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たるということができる。
そして、Y社における通勤手当は、通勤に要する交通費を補填する趣旨で支給されるものと認められるところ、労働契約に期間の定めがあるか否かによって通勤に要する費用が異なるものではない。また、職務の内容及び配置の変更の範囲が異なることは、通勤に要する費用の多寡とは直接関連するものではない。その他、通勤手当に差異を設けることが不合理であるとの評価を妨げる事情もうかがわれない。
したがって、Y社における、正社員とアルバイトであるX2との間における通勤手当に係る労働条件の相違は、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当であり、このような通勤手当制度に基づく通勤手当の不支給は、X2に対する不法行為を構成する。

(3)以上によれば、X2の雇用契約に基づく請求(主位的請求)は理由がないが、上記のとおり不法行為の成立が認められ、弁論の全趣旨によれば、X2は、平成26年9月から平成27年9月まではF市T区Uに、同月から退社する平成29年4月30日まではJ市K区Vに居住し、マイカー通勤をしていたこと、いずれの住居もB支店から片道距離10数キロメートルであることが認められるところ、これをY社通勤手当支給規程に当てはめれば、1か月当たり少なくとも5000円が支給されることになり、正社員であれば受給できたものとしてX2が請求する13万円(5000円×26か月)が損害額と認められる。これに対し、Y社は、平成27年9月支払分以前の通勤手当相当額の損害賠償請求権について、消滅時効を主張するが、X2の請求は、正社員とアルバイトの通勤手当に係る労働条件の相違を前提とするものであるところ、アルバイトである自らに適用されることになる非正規従業員給与規程はともかくとして、正社員に対する通勤手当の支給条件については、E組合に加入してY社との団体交渉を開始した平成29年4月より前の時点で、X2がこれを認識していたことを認めるに足りる確たる証拠はない。そうすると、X2が予備的請求を追加した平成30年9月26日までに、3年の時効期間が経過していたとは認められないから、Y社の上記主張は採用することができず、X2の不法行為に基づく損害賠償請求(予備的請求)は理由があることになる。

5.評価

この裁判例は、結論としてかなり妥当です。

まず、X1について会社側の主張を認めた点は自然です。通勤手当は、通常、労働者が申請して初めて支給される制度として設計されることが多く、制度と手続が一定程度周知されていたのであれば、申請をしなかった者に対し長期間さかのぼって支給を認めないという扱いは、直ちに不合理とはいえません。会社側に申請妨害や誤導があったのであれば別ですが、そのような事情がない以上、裁判所が権利濫用を否定したのは相当といえます。

他方で、X2について不合理な待遇差を認めた点は、本件の中核であり、評価できます。通勤手当は、賃金のように能力や成果、責任の重さに応じて差がつく性質のものではなく、あくまで通勤に要する費用を補填する趣旨の手当です。そうである以上、雇用形態の違いのみを理由に不支給とすることには合理性が乏しいと考えられます。この点は、後の最高裁判例や同一労働同一賃金ガイドラインの考え方とも整合しています。ハマキョウレックス事件でも、通勤手当は不合理な待遇差とされやすい典型例として扱われています。

もっとも、この裁判例でやや特徴的なのは、救済方法です。裁判所は、通勤手当不支給が不合理であることは認めながらも、直ちに雇用契約上の賃金請求としては認めず、不法行為に基づく損害賠償という構成を採っています。これは当時の旧労働契約法20条の解釈としては珍しくありませんが、理論的には少し回りくどい印象があります。実質的には「払うべきだった金額」を支払わせるのであれば、契約上の権利として認めた方が分かりやすいからです。

ただし、裁判所がこのような構成を採った背景には、規程文言の問題や判決の射程を限定したいという配慮があったとも考えられます。もし「但書無効だから本文がそのままアルバイトにも及ぶ」とすると、X2個人だけでなく、同じ規程の適用を受ける他のアルバイトにも広く影響が及ぶ可能性があります。判決としては、そのような広範な効果までは認めず、まずは個別の損害賠償という形で救済したかったのではないかとみる余地があります。この意味で、結論自体は労働者保護に配慮しつつも、理論構成は比較的慎重で保守的だったと評価できます。

6.実務でのポイント

この裁判例から会社側が学ぶべきことは明確です。

第一に、通勤手当を申請制にするのであれば、制度の内容、申請方法、遡及の範囲について、従業員に十分に周知しておく必要があります。就業規則に書いてあるだけでは不十分であり、入社時説明やイントラ掲載、申請書式の整備など、実際に申請できる状態を作っておくことが重要です。周知が不十分であれば、後に紛争となった際に会社側が不利になる可能性があります。

第二に、通勤手当について、正社員・契約社員・パート・アルバイトの間で支給条件に差を設けることは、現在の実務では非常にリスクが高いといえます。同一労働同一賃金ガイドライン上も、通勤手当は原則として同一支給が求められる類型であり、雇用形態だけで不支給とすることはかなり危険です。

第三に、規程の書きぶりも重要です。本件のように「パートタイマーには支給する。ただしアルバイトには支給しない」という規定の仕方をしていると、仮に但書部分が問題とされても、直ちに本文の効果がアルバイトに及ぶとは限らない、という複雑な議論になります。会社としては、そもそもそのような差を設ける必要があるのかを再検討し、不合理な区別を生みやすい条文構造を避けるべきでしょう。

7.まとめ

この裁判例は、通勤手当に関して、二つの異なる問題を切り分けて判断した点に特徴があります。すなわち、申請手続を履践していない労働者については会社の支給拒否を認める一方で、アルバイトを一律に支給対象外とする取扱いについては不合理性を認め、損害賠償という形で救済を与えました。

私見としては、結論は妥当であり、X2について不合理な待遇差を明確に認めた点は評価できます。もっとも、賃金請求ではなく不法行為構成にとどめた点は、理論的にはやや慎重で、実務上の分かりやすさという意味では課題も残る、という評価になります。

現在は、旧労働契約法20条の考え方はパートタイム・有期雇用労働法8条に引き継がれており、通勤手当に関する均等待遇の要請はより明確になっています。したがって、今後の企業実務においては、通勤手当の支給対象や条件を改めて見直す必要性は、以前よりも高まっているといえるでしょう。

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